スーツケースを磨く、陸マイルを数える

ここ2年ほど、飛行機に乗っていない。すっかり地に足をつけた生活に馴染んでしまった。

飛行機に乗り、知らない土地に行くのが好きだった。馴染みのない天井を見上げ、寝起きの頭で「ここどこだっけ?」と考えたり、初めて入るごはん屋さんで、勘を頼りにメニューを決める時間がとても大切だった。

旅先での予定は、空白。旅ではなく、ただの移動だったのかもしれない。名所もショッピングセンターも回らない、怠惰な移動だ。

駅前の地図で乗り換えを調べ、調べたけど面倒になって結局ホテルに引きこもることもある。ひどい時はファミマのおにぎりを食べるけど、北海道にはセイコーマートがあるから、無駄旅の罪悪感がちょっと薄れる。行って、ダラダラ過ごして、終わり。

移動の思い出は別に誰にも話さないしお土産も買わず、飛行機を降りたらヌルッといつもの生活に戻る。あっという間に戻ってこれる生活がちゃんとある、旅先で孤独を感じても、本当のところ一人ではないと知っていたから、知らない場所でわざわざ一人になる時間が好きだったんでしょうな。

生活が変わり、旅行に行く代わりに、ネットを見ない時間がわざわざ作っていた。要するに、私は周りの人達の「いま何してる?」を摂取しない時間を必要としていたらしい。繋がりをいっときオフにするための移動、移動というか逃避に似ている。

去年と今年、スマホを機内モードにするだけの、とてもリーズナブルな移動をたくさんした。体はどこにも行っていないので、気持ち的には移動、というだけの話だけど。空を飛べないぶん陸でお買い物をし、クレジットカードにマイルが貯まっていく。

ほこりを被ったスーツケースを拭きながら、落ち着いたらまた飛行機に乗りたいと思う。逃避先というか休憩場所を探している、いつも。やっぱりお土産は買わないだろうし、服を着替えてお出かけすることもそんなにないだろうし、今度は、もっと小さなかばんでも大丈夫かもしれない。

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