機内誌で、浅田次郎さんのエッセイを読んだ。コロナ禍とは、コールハーンを一足39ドルで買える世界のことだったのかと思う。
しかし、安い。デパートで普通に買うと、10倍以上の価格になるはず。流通過程で乗っかるマージンのえげつなさについて考え、でも上乗せ分でキラキラした接客をしてくれるのだから、それはそれで喜ばしいのか。
飛行機を降りると、呼吸が軽くて驚いた。夏だ。
雨でないのなら、と傘を置いて出かけたら、そういえば私の傘は雨晴兼用だった。空模様は晴天。まっすぐ降りかかる夏の日差しは、肌に痛い。
「つらお…」などと呟いたものの、つらおはビフォーコロナ時代の言葉な気がした。
傘を持ちたくないのは身軽さが恋しいから、でも傘を持つのは保険のためで、保険とは辛い時期をラクにしてくれるものだったな、と思い出す。
半袖の形に、腕は赤く日焼けをした。久しぶりの日焼けな気がする。
赤くなった腕で吊り革を掴む。
電車のサイネージに登場するのは、初めて見る顔ばかり。少しずつ旅を思い出しながら、いま何が流行りなのかを全く知らない、浦島太郎みたいな移動をしている。